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理事長

規約には「理事長は本会を代表し、会務を統括する」とあります。これまで八鳥治久氏、田中寛志氏、田代悦子氏の3名が、理事長を経験され、それぞれの時代に沿った方針を打ち立て、全身全霊で協会運営に携わって来ました。以下は、歴代理事長の業績の記録です。


八鳥治久 (1987年ー2002年 理事長)

生 

1980年代、わが国では、あらゆる面での成熟化が進行していた 。それが人びとの購買行動に変化をもたらしていた。また、情報化の進展は人びとの見ることへの志向を強め、ビジュアルということが生活の中で大きな位置を占めつつあった。

そんな中にあって、アメリカから経営戦略の一つの概念としてビジュアルマーチャンダイジングというものがもたらされた。多くの企業は、この戦略の導入を図った。そしてそれに携わる人間の専門化を求めた。

このような 時代の要請に応えて1987 年 4月、日本ビシュアルマーチャンダイジング 協会は93名の会員によって設立された。その時出した設立趣旨は次のようなものだった。

「ビジュアルマーチャンダイジング。文字通り商品計画、商品政策の資格表現という概念と言葉は、いま経営戦略のキーワードの一つとして、略語VMDの通用が示すように定着をみせたといえます。その業務に携わる人は、ますます専門化を期待され多様な情報、技術の交流研鑽が不可欠なものとなっています。このような状況にあって将来の展望を考ええるとき人材の育成と能力の開発技術の向上こそが関連分野と社会の繁栄に貢献できるとの確信に至りました。またより国際化への対応が求められる今日、世界と交流できるVMDへの期待に応えその責務を果たしていくことが時代の要請でもあります。この認識に立ち相互の情報、技術、理論を練磨発展創造 するコミュニケーションの場として1987年4月4日協会は創立されました」

この設立に当たって、協会活動の指針になる二つのキーワードを提示した。「コミュニケーション」と「広がり」である。会員一人ひとりが情報を分かち合うこと。それによって社会への広がりを得ることを方針とするということだった。

活動は四つの委員会体制でスタートした。研究と能力開発とを担当する研究開発委員会、情報発信と各種交流を担当する情報委貝会、組織の開発と強化を担当する組織委員会、人材育成を担当する教育委員会である。なお組織委員会は翌年、組織開発会議と改称した。開発面を強く意識したからである。協会運営を担当する役員は、対応を速やかにするために設立準備委員がこれに当たった。ただし任期は1年だった。翌年任期終了とともに第一回選挙を行い、15名の理事と2名の監事を決定した。

 

の発

スタートしたばかりの協会にとって急務の一つは、協会としてVMDの定義を行うことだった。あらゆることの基礎になるものだからである。また、人によって、場によって、さまざまな定義が横行していたからある。そこで広く会員に意見を求め、一つの案を提示した。さらにその 洗練を行い、1989 年に定義を 発表した。それは次のようなものだった。

「文字どおりマーチャンダイジング の視覚化である。それは企業の独自性を表し他企業との差異化をもたらすために、

流通の場で商品をはじめ全ての視覚的要素を演出し管理する活動である。この活動の基礎になるものがマーチャンダイジングであり、それは企業理念に基づいて決定される。」 

 

V M D 用語事典の刊行

協会にとってもう一つの急務は、VMDに関わる用語の解釈を行い、それをまとめた用語事典を刊行すること だった。

なぜなら言葉の解釈に違いがあっては正確な意思の伝達は成立しないからである。また言葉の理解があいまいであっては、

真実をつかむことができないからである。1989年、教育委員会を中心に実行委員会をつくり編纂に当たった。参加した会員は80名余り、要した年月は 5 年 5ヵ月、150 回を超える編集会議を経て完成した。そして1995年、協会の8周年を記念するものとして刊行した。

 

なセッション

協会は、研究のための集会 ―セッションに 取り組んだ。そのテーマは、「ニューヨーク」、「百貨店」、「シェーカー」、「知的所有権」、「エコロジー」と多彩だった。なかでもとくに力を入れたものは「日本型VMD」と呼んだものである。これは日本の商いの歴史が培ってきた知恵と技術とを学ぶことだった。1987年の「祇園祭」から始まり、「和菓子」、「正月」、「百人一首」、「日本の祭」、「日本料理」、「香り」、「もてなし」などが研究の対称になった。これらの研究からクローズアップされたものは日本人の美意識だった。

人は存在そのものが情報である。そして人の仕事は情報の宝庫といっていい。そんな考えを基にスタートしたセッションが「オンステージ」である。1989年その最初の舞台に上がったのは、 前年亡くなられた井上富士男氏だった。以来多くの会員がステージに上がった。そこからコミュニケーションの輪が広がった。1992年には、日本全国の 11 ヵ所の状況をリアルタイムにとらえ、それを研究するセッションをスタートさせた。

「日本縦断ビジュアル最前線」 である。それをさらに世界的な規模にまで広げ、毎年恒例のものいし、協会の名物行事に育て上げた。

 

検定の支援

国家試験である商品装飾展示技能検定に対し、協会は人材開発の観点から、教育開発委員会の主導のもとに協力をした。

1988 年にスタートした「説明会」、翌年より始めた「受験対策セミナー」、そして中央検定委 員及び東京都検定委員の派追がそれである。1997年には、セミナーに新たにインストラクター専門コースを加えた。

しかし、協会として検定委貝の派述と受験対策のセミナーとを行うことは矛盾することと考え、2001年からは暫定的な組織である商品装飾展示技能士会によりセミナーを開いた 。

 

広がリを求めて

協会が社会への広がりを得るためにはメデイアによる紹介が欠かせない。そのために出版への協力、 会員による寄稿、そしてメディアに対し情報を提供するパプリシティの三つの活動に積極的に取り組んだ。そこから生まれたものに1990 年と1991 年の「別冊チャネラー・デイスプレイマガジン」、1992 年と1993年の「別冊チャネラー・イヤーブック」などがある。

会員による寄稿記事にはさまざまなものがあるが、特筆ものとしては 1988 年 4月より日本繊維新聞に連載された「 V M D クリエーター歳時記 」を挙げたい。そこには 50名余りの会員が、それぞれに思いを込めた記事を寄せた。

 

ジャパンショップヘの協賛

協会は1993 年、ジャパンシ ョップの協賛団体になることを決定した。社会的認知を高めるために必要なことと判断したからである。そして翌年より、日本経済新聞社との共催によって「売る戦略 · 見せる技術」のスローガンのもと、VMDの本質を探るための セミナーをスタートさせた。「VMDの原点とこれから」「売り場編集 ・カタログ編集」「VMD価値の創造」「ライフスタイルとVMD」「VMD最前線ショップスタイル」「VMDとマネキン、この時代とその行方」「VMDとSPイベント」「VMDの現場、今、明日」「三国清三   の世界・食のプレゼンテーションとVMDのこころ」といったタイトルのもと、いずれもVMD に何ができるのかを問うものだった。併せて1995 年より、ジャパ ンショップ来場者に向けて歓迎の心を表す「ウエルカム ・プレゼンテーシ ョン」の制作協力を始めた。またガイドブックヘの執箪協力も行った。

 

組織の変遷

1996年、スタートして9 年、協会も活動メンバーの固定化が問題になってきた。それを解消するために、すべての 会員が参加する エリア・ネットワークをスタートさせた。これは全国を8つのエリアに分け 、そのエリアごとに会員を細分化し、活動と交流とを身近なものにすることが目的だった。

併せて、これまでの3 委員会1会議のシステムを廃し、新たに事業委員会、広報委員会、組織委員会の 3 つの実行委員会をスタートさせた。事業委員会は事業運営を協会全体を横断するものにすること、広報委員会はパプリシティ活動を活発化すること、組織委員会は協会組織を強固なものにすることが目的だった。

さらに 2000 年には新しい活動組織をスタートさせた。それはこれまで事業単位に細分化されていた実行委員会システムを、人材育成、情報提供、組織強化の事業目的に応じた教育系活動組織、情報系活動組織、組織系活動組織の 3つに変えること。そして担当理事と参加会員が協同して事業を行うこと、それに関わる業務も併せて遂行すること、それらのことによって事業を活発化させるとともに事務局の負担を少なくし、小さな事務局を実現することが目的だった。

 

10周年と15周年

1997年、協会は10 周年を迎えた。私はこの機会をとらえ、記念のスピーチを行った。それは協会が行ってきた 10年間の研究を総括し、そこから得られたVMDに対する認識を6つの項目にまとめたものである。VMDとは、「商いの原点にあるもの」「企業理念を伝えるもの」「もてなしの心を伝えるもの」「あらゆる販売接点にかかわるもの」「生活価値を創造するもの」そして「顧客と企業とのコラボレーションによるもの」、といった認識である。

2002年には15周年を迎えた。これを機会に協会のリ・モデルを行うことにした。協会の将来を考えた時、ここで再構築行うことが必要と考えたからである。組織は改革を繰り返すことによって成長していくものだからである。これまで組織の変更は行ってきたが、今回会員に求めたものは事務局運営、活動方式、組織体制など 全てにわたっての再構槃だった。今、協会は、その成果が問われている。

(「日本ビジュアルマーチャンダイジング協会20周年記念誌」より)


田中寛志 (2002年-2006年 理事長)

私が理事長の時代は、インターネットの定着と海外ブラ ンドの日本導入が市場とVMD 業界に大きな影響を与えた 。「インターネット」の活用により、お客さまを全体から捉える視点から一人一人から捉える視点に変わり、商品やサービスの情報も個別に取得できる 時代になった。「海外プランド 」の導入により、ブランドイメージを決定する商品企画や商品展示の大切さや、フラッグシ ョップの空間デザ イン、シ ョーウインド ウの大切さなど独創的なブランド 文化を高めるVMD の重要性を再認識した。

 時代が変革する中で協会は理念を再設定し、リモデルを目指し改革をスタートさせた。具体的な内容は、(大切な)会費を活動に生かすため、固定費となる「事務所費用をスリム化(業務委託)」し、理事を責任と権限をもつ「執行理事」とし、活性化と若返りを目指し、組織の中心を会員と執行理事とする「樹木型逆ピラミッド組織」に意識改革した。さらに生活者環境の変化に合わせ、情報の地域差をなくす「協会ホームペー ジ」を開設し、2004 年には全国地域の会員の拡大と活性化に向け「地域リーダー」を選出した。

 

時代のキーワードとVMDが目指した方向

お客さまの生活環境は変わり、インターネットと海外ブランドの影響が大きく、VMDの目指す方向にも変化が求められた。

1.インターネット時代となり、視覚的VMから、視覚を核に五感や記憶を含む身体的で高効果のVMD へ

2.ブランド時代となり、売り上げ至上主義の経済経営的VMから、お客さまがブランドに憧れる文化経営的で高効果のVMD へ

3.グローバル視野&ローカル視点の時代となり、欧米から学んだVMD に日本独自の文化技術を加えグローバル&ローカルに共感される高効果のVMD へ

4.低成長経済時代が続き、視覚優先の装飾的VMD から商品と視覚のメッセージが一体となって、お客さまの心を捉えて離さない高効果のVMD へ

結果として、お客さまがブランドに憧れファンとなり、何度でも店を訪れ、今も将来も売れるVMDの方向を学び目指した。

 

協会理念の再設定

協会の目指す方向を、お客さま視点、経営や社会性を含め以下のように明示した。

「お客さま一人一人の喜びとなる、豊かな商業環境の創造に向け 、経営理念やマーケティング計画とともに、商品展示、店頭や環境のプランニング、演出、制作、研究他を行う。文化技術のスペシャリスト集団として、交流と創造と社会提案を目指す。」

 

協会のリモデルがスター卜

(大切な)会費を、活気ある会員活動や新企画に生かすため、事務所機能(場所代+入件費)をスリム化し、お客さまの変化と共に、ネット空間と人の交流の場を共に大切にした協会に改革し、アウトソーシングに委託した。更に、全国地域での情報の共有化を目指し、2003年3月「協会ホームページ」を開設した。内容は「最新情報」、「協会について」、「活動紹介」、「技能検定支援」、「お問い合わせ」からスタートし改善を加えた。

 

「商品装飾展示」技能検定の支援

VMDのための能力開発、人材育成、技能研磨の見地から、「技能士」として公証される技能検定を、事業活動の一環として、厚生労働省に対し意見具申を含め支援活動を行った 。
1.中央職業能力開発協会への協力として、要請により試験問題の作成等を担当する中央技能検定委員を派遣
2.都道府県職業能力開発協会への協力として、要請により試験の実施等を担当する東京都技能検定委員を派遣
3.技能検定勉強会の件

2002 年以降、協会としては事前検定推進セミナーを行わなかったが、技能を学ぶ「場」や「ガイドプック」は、人材育成及び受検者支援の立場からも必要と考えた。この為協会の会員有志が主催する「塾」を承認し た。

4.2004 年4月に「VMD用語事典」改訂版を編集しエポック出版より発刊

5.「 国家試験商品装飾展示技能検定ガイドブック」を編集

「商品装飾展示技能検定」の受検希望者やVMD関係者に役立ち、協会の存在をアピールする技能検定ガイドブックを、協会員を中心に執筆及び編集し繊研新聞社から2006年2 月に出版した。内容は「過去問題集」を中心に、検定に必要な技術や知識修得の概要を解説した。出版を記念して正会員と賛助会員に対し、会員特典として一冊ずつ進呈した。これはVMDの基本となる商品装飾展示の基礎技能や技術の共有化を願い、実施した。

 

「会員ネットワーク」の設定と「地域リーダー」の選出

全国会員が入会と同時に、自分の地域で活動を可能にする「会員ネットワーク」を設定し地域活動と会員の連絡網に活用した。併せて北海道地域、 関東地域(東、西、南、北)、中京地域、関西地域、中国地域、九州地域の9地域の「地域リーダー」を選出した。地域活動の明示と活性化、理事会との情報の共有化、新会員の獲得、地域での外部団体との交渉など責任と権限を持つリーダーが誕生し、2004 年11月に第一回地域リーダー会議を開催した。

 

ジャバンショップ」に特別協力

VMDの社会的認知の拡大を目指し、毎年3 月に行われる日本経済新聞社主催の店舗総合見本市「ジャパンショップ」に特別協力した。

「ジャパンショップ会場セミナー」は「売る戦略 見せる技術シリーズ」を継続し、時代の中で輝くヒトやプランドを取り上げ、タイムリーでHOTなVMD研究のシリーズを具現化した。 2003年はインテリア誌「DREAM 」の編集発行人山本寿美子氏を迎え「インテリアから探る 共感 VMD 」、2004 年は伊勢丹時代に「解放区」を立ち上げた藤巻幸夫氏を迎え「藤巻流VMD」、2005 年は「バーニーズ ・ニューヨーク」の経験もある北村文人氏を迎え「進化するVMD・ユニクロのパワーと新局面」、2006 年は「アデイダス ・ジャパン」のVMDシニアマネージャーで協会員の宮下秀敏氏を迎え「グローバル戦略のVMDーアディダスの新展開」を行った。

会場入口に設営し広報効果が高い「ウエルカムプレゼンテーション」は、毎年メッセージ性のあるテーマでデザインと制作協力を行い、話題となった。各年度のテーマと担当は 2003 年「染まる街」、ディレクション ・デザイン前田修氏 ・宮原清氏。 2004 年「D N Aの樹」、ディレクション ・デザイン前田修氏・宮原清氏・小林敦氏。 2005 年「間」、ディレクション ・デザイン雲野一鮮氏。 2006 年「繋ぐ」、デザイン藤平明子氏、協力雲野一鮮氏。

 

「ピジュアル最前線」と「オンステージ」

活気のある協会活動として継続する、年末恒例の「ビジュアル最前線」は協会員が国内や海外のクリスマスをリアルタイムで取材・編集し、スライド&トークシ ョーを行う集客力の高いビックイベントとなった 。特に2003年のクリスマス「ビジ ュアル 最前線」は特別 企画「世界のクリスマスこの10年」を組み、会場は恒例の東京・大阪に福岡・札幌を加え、ビジュアルプレゼンにデジタル編集も行い、東京213名、大阪102名、福岡100名、札幌76名

合計491名の動員で大成功をおさめた。この実績がその後の地域活動の自信につながった。

人は 情報の観点から、豊富な人材を持つ協会員の一人にスポットを当てる「オンス テージ」は、VMD関係者の

交流の場として定着した。2002年「八鳥治久」氏、2003年「田代悦子」氏。2004年「打良木誠」氏が登場した。特に2003年4月に行われた、 八鳥治久氏による札幌でのオンス テージは 120名の参加があり、企画運営をした地域会員の自信に結びつき、その後の地域活性化の起点となった。

 

 

新プロジェクトの「新企画」

協会員以外の様々な職種や職業人との出会いから、新時代のVMDを研究し発想につなげることを目標に、新プロジェクト「新企画」をスタートさせた。2003年はN H K の斉藤健治氏と稲葉寿一氏を迎え「ドラマの気になる部屋を徹底リサーチ」、2004年は(社)日本商環境設計家協会のメンバーを迎え「商環境とVMD」、2005年は著書に「伊勢丹な人々」他がある川島蓉子氏を迎え「何で売れない?どう して買わない?」のセミナーを行った。

 

「私のVMD· 私とVMD」がスタート

2002年から2003年は協会のリモデルに 重点を置き、VMD研究が弱まった事を反省し、2004年に新プロジェクト「VMDビジョン研究委員会」を設立した。

2005年3月「私のVMD ・私とVMD」と題した発行物の刊行をスタートさせた。人材豊富な協会員のVMDに対する考え方 ・関わり方 ・実際の取り組み例 · 展開のアイディア等を発信する協会員の全員参加企画だ。また蓄積が「VMD協会員のプロフィール」と「VMD情報」のデータベースとなることを目指した。併せて協会ホームページを全会員の発信の場として活用することで地域差をなくし、協会内のネットワークを再構築し、協会を活性化させることを目標とした。 2005年3月地域リーダー9名が登場して第一回配信、2005年7月各地域VMDビジョン研究委員中心の8名が登場して第二 回配信、 2005年11月全国より23名が登場して第三回配信をおこなった。

最後に創立20周年を協会の一つの節目と考え、「協会 20 周年プロジェクト」事業の計画案を検討した。

  1. 出版 :「私のVMD・私とVMD」
  2. 日本VMD協会20周年記念シンポジウム:テーマ:「私のVMD・私とVMD」

3.「協会ホームページ」の充実。

(「日本ビジュアルマーチャンダイジング協会20周年記念誌」より)


田代悦子 (2006年ー2017年 理事長)

2017年、日本ビジュアルマーチャンダイジング協会は創立30周年を迎えました。

協会創立当時から今日までの約30年間に、極めて重要な時代変化の波が何度か押し寄せ、世界的規模ですべての分野に影響を及ぼしました。1989年の東西冷戦終了以降、急速なグローバル化が進むと同時に、ITの普及が時代の変化を加速させ、あらゆるジャンルのボーダーレス化現象が顕著になっていきました。

2006年5月から2017年まで、私が理事長を務めた時代は、買い物のスタイルが大きく変わった時代と位置づけられます。特に2008年のスマートフォン出現の影響は驚異的であり、人々のライフスタイル全体が大きく変化しました。その後、SNSとモバイル消費が加速度的に拡大した結果、Eコマースが急成長を遂げ一般化しました。その一方で販売スタイルは「リアルショップ」のみ、「Eコマース」のみの「シングルチャネル」から、「オムニチャネル」へと進化してきました。

このような購買スタイルや販売チャネルの多様化は、VMD業界にも多くの影響を与えています。日本VMD協会はそれぞれの時代の要請に対応すべく、VMDの価値と方向性を示すためにさまざまな勉強会やセミナーを企画、開催してきました。同時に、会員が協会活動に参加することにより、個々のスキルアップとメリットに繋がるような運営を目指してきました。そのキーワードは「コミュニケーション」、「持続可能性」、「これからのVMD」です。

協会事業は、外部のセミナー講師、一部の取材協力者などを除いては、会場運営も含めすべて協会員により企画、実施されており、会員の献身的な協力により成し遂げられています。

 

「変化する時代に対応するVMD」をテーマとしたセミナー

2006年以降、グローバル化、テクノロジーの進化、ITコミュニケーションの発達、環境保護や健康に配慮するライフスタイルなどに人々の関心は高まり、時代は大きく変化しました。VMDの真価が問われる中、VMDに何ができるのか、VMDのプロとして何をすべきなのかを追求し、時代が求めるVMDを現場から探り、捉え、様々な事業や活動を通じ社会に向けて発信してきました。以下はその一例です。

・2009年3月ジャパンショップセミナー:「時代を生き抜くVMD」 リーマンショック後の経済状況に対応

・2009年11月TERAKOYA:「ブランディングとVMD」 ブランディングの概念を通して俯瞰的にVMDを捉える

・2010年3月ジャパンショップセミナー:「ブランディングにおけるVMDの本質」

・2011年5月 総会特別講演会:「場所の力」 3・11後、次の一歩をどのように踏み出すかを考える機会とした。「どう生きるか」

・2012年10月TERAKOYA:電子書籍「VMDビジュアル・テキスト&トピックス」の世界

 リアルショップとオンラインショップにおけるVMDのケーススタディ。O2O時代の勉強会。

・2013年3月ジャパンショップセミナー:「O2O時代のVMD―リアル店舗の戦略と最新動向」

 O2O時代のVMDのあり方、未来のリアル店舗を支えるVMD戦略とその最新動向とは何か、ライフスタイルと五感コミュニケーションをテーマに事例を分析・検証。

・2013年3月ジャパンショップセミナー:「ライフスタイルショップのVMD」―THE CONRAN SHOP の提案と表現― クオリティーの高いライフデザインの演出表現と商品特性の表現

・2017年3月ジャパンショップセミナー:「三根弘毅氏が提案する空気感・暮らし方 それを表現するVMD」 「ラカグ」をクローズアップし、お店が提案する空気感や暮らし方のVMDを探求。ライブ感の表現がアクセントとなる。

 

協会活性化プロジェクト

「コミュニケーション」、「持続可能性」をテーマとし、全国会員ネットワークを強化して協会全体の活性化に繋げる仕組みを作ることにより、会員の満足度アップと次世代及び協会外へのVMD認知度向上を図り、更なる協会の発展を目指しています。

・2010年7月-9月協会活性化アンケート実施 …… 地域会員のネットワーク強化、活性化を図る 

・2012年2月大阪-東京間、インターネット会議開催

・2014年10月全国地域リーダーズミーティング復活開催

・2015年全国地域リーダーズミーティング第2回開催、地域担当理事を設置しサポート体制を強化

・2016年全国地域リーダーズミーティング第3回開催、九州・沖縄地域の活性化、独自セミナー開催

・2017年全国地域リーダーズミーティング第4回開催、今後の活動について討議、協会活動紹介動画

 

20周年記念誌出版

創立20周年を迎えるにあたり、活動を記録し協会とVMDに対する認識を明らかにするため記念誌の刊行を2007年5月の総会で決定、協会員全員が参加してVMDというテーマに取り組み、2008年春に刊行されました。記念誌全体のコンテンツは、協会員全員の寄稿による「私のVMD・私とVMD」を縦組み頁に収録し、新たな企画の「日本ビジュアルマーチャンダイジング協会小史」、「私のVMD論、MD論」、「私のセレクトシーン」、「MPスキル VMD教育術」、「協会員Who’s who/インデックス」などを横組みにし、立体的に構成されました。この記念誌は、VMDプロフェッショナル集団である協会の全体像を浮き彫りにし、協会の存在感をアピールすると同時に、協会員のコミュニケーションツールとしての役割も果たしました。

 

協会ホームページのリニューアルとメールマガジン

情報発信力を高める目的で2003年3月に協会ホームページを開設、2007年に本格的なリニューアルに取り組みました。その後2016年にはデザインを一新し、ウェブ事務局としての機能の充実を推進させています。また、協会メールマガジンは2006年7月に配信がスタートし、常に機能をアップデートしています。(詳細については「3.専務理事、常務理事、事務局」の項を参照してください。)

 

「商品装飾展示」技能検定に対する支援事業と関連図書の出版

VMDに関連した国家試験「商品装飾展示」技能検定に対し、協会は専門的な立場から、人材育成、能力開発、関連業界の発展に寄与するため、協会活動の一環として支援事業を行っています。その主なものとしては、中央職業能力開発協会からの委嘱により試験問題作成に携わる中央検定委員の派遣と、東京都をはじめとする各地の職業能力開発協会からの委嘱により試験の実施・運営・採点等に携わる技能検定委員の派遣があります。以上の支援活動は「商品装飾展示」技能検定が開始された1988年から始まり、現在も継続している活動です。その他の活動としては、時代の変化に対応した「技能検定」のあり方を追究し、実際の業務に役立つ技能やVMDの視点に基づいた試験問題の研究・分析などが挙げられます。

2014年9月、受検者数の増加と技能検定の周知を目指し「技能検定説明会」を再開しました。回を重ねるごとに参加者も増え、受検促進の効果が表れています。

今後については、「商品装飾展示技能士」という古風な名称を「ビジュアルマーチャンダイザー」などの、実際使われているわかりやすい呼称に変更(あるいはニックネームとして使用)できるよう関係省庁に働きかけ、同時に試験内容も名称に見合うように進化させ、受検促進につなげるのも一法と考えられます。

 

技能検定関連の出版物

●VMD用語事典

1995年に日本ビジュアルマーチャンダイジング協会創立8周年を記念して第1版が刊行されました。その後2004年の部分改訂、2008年の第5刷改訂版を経て、協会創立30周年を記念し、改訂最新版を刊行しました。VMDやMD、それをとりまく時代の急速な変化に合わせ、用語の削除、解説文の見直し、新用語の増補を大規模に実施し、収録用語とその解釈をアップデートしました。集められた約1300語は、ビジュアルマーチャンダイザー、デコレーター、マーチャンダイザー、販促担当者、販売員の方々が知りたい、現場で生きるVMDの知識と技術を網羅しています。一方、当協会が支援協力する、「商品装飾展示技能検定」の受検者向け参考書としての役割も果たしています。

●国家試験 商品装飾展示技能検定ガイドブック

2006年に初版が発行されました。マーチャンダイズプレゼンテーションに関する基礎知識と技法をまとめたパートと、4年分の各級の過去問題について解答と解説を掲載したパートから構成され、「商品装飾展示」技能検定受検希望の方をはじめ、マーチャンダイズプレゼンテーションにかかわるすべての方々が必要とする知識と技法の基本をまとめた書でもあります。デコレーター、ビジュアルコーディネイター、ビジュアルマーチャンダイザー、ショップディレクター、販売スタッフ、マーチャンダイザー、販促担当者、VMD教育関係者、関連学校の指導者や講師の方々にとって必携のガイドブックです。その後、2009年、2014年と改訂を重ね、現在は最新の過去問題を収録予定の改訂第3版刊行に向けて準備中です。

VMDに関する研究活動:TERAKOYA

2007年、新時代のVMDを研究する新企画セミナー委員会が、「VMDトークセッション・TERAKOYA」という講座を開始、第1回「新商業施設」、第2回「マネキンと備品」と続き、ニュースタイルのVMD研究・情報収集講座が継続されました。

2008年にTERAKOYAは活動コンセプトを一新、VMDプロフェッショナルとしての「知と技」の能力向上を目的とし、日本VMD協会の会員相互によって研鑽を行うセミナーとしてリニューアルされ、本格的にスタートしました。時代の求めるVMDに関する諸理論と技術を両輪としたVMDセミナーを企画し、講師はVMD協会会員により実施することを基本としました。TERAKOYAは会員相互の研鑽とコミュニケーションの場であると同時に、VMD教育の場を提供する、という社会的貢献も目指しています。

2008年7月、第1回TERAKOYA VMD研究1-売り場を科学するー「店という器に魂を入れる」(講師:早乙女喜栄子)の開催を皮切りに、2017年3月までの10年間で21回のTERAKOYAが開催されました。その後、回を重ねるごとにセミナーのスタイルが進化し、講師も会員だけではなくテーマによっては外部の方に依頼するなど、内容がアップデートされ現在に至ります。TERAKOYAには、常に多くの会員が参加し、「会員相互の研鑽の場」と「コミュニケ―ションの場」、というTERAKOYA本来の2つの目的をとげ、協会活動の活性化に大いに貢献しています。

 

 

ジャパンショップへの協力

●会場セミナー:「売る戦略・見せる技術」

日々変化し続ける時代とマーケット環境を捉え、今日的なテーマとふさわしいスピーカーを選び、VMDの観点で企画・表現するジャパンショップ会場セミナーは、日本VMD協会が社会に発信し存在価値を高めるための重要なイベントと位置付けられています。日本経済新聞社と当協会が共催する会場セミナー「売る戦略・見せる技術」シリーズは、1994年に第1回が開催され、2018年3月で通算25回目となりました。

●特別展示:「ウエル力ムプレゼンテーション」

1995年より、協会はジャパンショップ会場エントランスにおいて、来場者を歓迎する「ウェルカムプレゼンテーション」を行ってきました。時代を捉えたテーマを会員がデザインし、協会が制作協力するこの特別展示は、ビジュアルコミュニケーションとしてのメッセージ性も高く注目されました。

●セミナーと展示ブースの連携と融合

2013年以降、ジャパンショップ特別展示は従来のウェルカムプレゼンテーションから会場内のブース展示に変更となり、日本VMD協会としての情報発信をいたしました。来場者をおもてなしする空間を表現しつつ、日本VMD協会自体の存在感をアピールする絶好の広報の場ともなってきています。第1回目のブース展示では「VMD×未来都市」をテーマにビジュアルマーチャンダイジングを「見る」・「知る」・「集う」という3つのゾーンで紹介し、商業空間の未来を予感させるシンボル展示を行いました。特にコンテナブースで展示したシースルーウィンドウは、未来店舗の実例としてジャパンショップ・セミナー「O2O時代のVMD-リアル店舗の戦略と最新動向」ともリンクし、相乗効果を引き出しました。

2015年にはVMD協会の年間活動テーマの一つであった「日本文化」と、ジャパンショップ2015の全体テーマ「店舗ホスピタリティ」を融合し、老舗和菓子店のVMDを探求する会場セミナー「『おもてなしのVMD』-日本の店舗ホスピタリティ・老舗の提案と表現-」を開催しました。ブースでの特別展示では、セミナーと連携する「和のおもてなし空間」をテーマとし、商いの伝統の象徴「のれん」をモチーフにした空間を表現し、来場者をお迎えしました。ブース内では、協会の広報活動の一環として、協会の歴史や協会員の仕事中の画像をパネル展示し、VMD協会およびVMDの仕事を具体的に紹介しました。

 

ニュースタイルのクリスマスビジュアル最前線登場

2006年12月、対外的な事業として恒例の「クリスマスビジュアル最前線・VMD World Report

2006」を東京と大阪の2会場で開催。協会のフットワークとグローバルなネットワークを活かしたリアルタイムな現地取材に加え、新設・VMD分析チームがVMD視点で編集したニューヨーク編、パリ編、ロンドン編、海外から収集したクリスマスカタログによるMD紹介、クリスマスシーン・アーカイブ、モーションディスプレイの取材、緻密なコメントを加えたクリスマスレポートなど、数々の新しい試みがあり、多数の入場者を集めました。

2007年12月には、「ニューヨーク編」に新メニューの「NADIショー・レポート」を加えてバラエティに富んだ構成にし、ビジュアルショーとしての基本構成ができ上がりました。札幌、大阪、東京の3会場で約420名という多数の動員があり、協会内外のコミュニケーション活性化、地域活動の継続、協会のイメージアップや認知拡大などに貢献しました。

2008年10月には秋バージョンのビジュアルショーを開催し、リーマンショック直後のニューヨーク、パリ、ロンドンをレポート。不況を吹き飛ばすようなアイディアに溢れた斬新なビジュアル表現により各都市の個性を際立たせ、参加者から多くの反響がありました。

2009年、引き続き厳しい経済状況が続きVMDの真価が問われるなか、前年に続き10月に秋バージョンを開催、ニューヨーク・パリ・ロンドン各都市の豊富なアイディアと斬新なクリエイションに、参加者から感動の声があがりました。年末恒例のクリスマスビジュアル最前線では、担当理事の編集による合計1000カット以上の迫力溢れるVP・VMDシーンにクリエイティブなアイディアや手法が駆使され、参加者から「自分たちもがんばろう、と元気付けられた。」「世界的に厳しい消費状況が続くなか、大いに刺激を受けた。」などの声が聞かれました。 

 

ビジュアル最前線からVMD Eyes Expressへ

VMD情報発信という重要な役割を担う事業として、1992年より20年以上にわたり「ビジュアル最前線」の名称で開催されたセミナーイベントについて、方向性を見直すチャンスが訪れました。2012年、インターネットやSNSの急速な進歩により世界中の情報を瞬時に見ることができる時代を見据え、ビジュアル最前線はどうあるべきか検討を重ねたのです。その結果、名称も「VMD Eyes Express」と改め、従来どおりの定点観測的な写真や動画の紹介に加え、独自の視点で取材、分析した特別企画を公開するというセミナーにリニューアルされ、その後も進化を続けて今日に至ります。

 

これからのVMDとVMD協会

「売る戦略・見せる技術」というキーワードでVMDを表現するVMD協会は、店頭表現のプロフェッショナル集団です。協会員はその技術と技能をもって、快適で過ごしやすい店舗環境づくりの一翼を担ってきました。ビジュアルコミュニケーションの一環として、楽しさや発見のある環境表現に努め、おもてなしのVMDを実践してきました。時代の求めに応じ、知恵を絞り、情報価値のある商品プレゼンテーションを工夫してきました。一方では技術・技能の伝承や研究に努め、人材育成に貢献してきました。

2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、都心では大型ショッピング施設が次々とオープンする一方、市場の縮小、地方経済の衰退、少子高齢化など、右肩上がりが望めない状況に、小売業では再編と集約が進み、百貨店の経営統合や、地方・郊外店の閉鎖が続いています。と同時に、クリックさえすれば好きな時に好きな場所に欲しいものが届くこの時代、物心ついた時にはモノが溢れていたデジタル世代が消費の主役に台頭しようとする今が、まさに消費の大きな転換点と言えます。オムニチャネルの急速な進展もあり、ウェブルーミングやショールーミングを駆使して顧客が利便性を追求する先には、リアル店舗とEコマースという区分が意味をなさない時代がみえてきます。

このようなパラダイムシフトが目前で起き、リアル店舗が変貌している今日、「VMDとはMDを見やすくわかりやすく美的に整えること」という昨日までの常識が通用しない時代となってきました。

では、これからのリアル店舗とVMDに何が求められているのでしょうか?

その答えの一つは、「どのようにしてリアル店舗にしか出せない価値を作るか」ではないでしょうか。そのためのVMDとはどのようなものなのか。以下に例をあげてみました。

・お客様の感情に訴えかけ「何か楽しい」、「何か気分がいい」、「何か居心地がいい」などのエモーションマーケティングから発想する店舗環境と、「エモーショナルVMD」

・人との関わりや、五感によって商品を体感し体験する「コミュニティの場」、「企業の世界観を体験する場」としての店舗と、その店舗における「体験VMD」、「体感VMD」

 

このように、VMDに求められる役割が大きく変わる状況にあって、協会のミッションは明日のVMDを予測し、その対応策を研究し、知識の蓄積によるビジョンの確立と計画の実現化を図ることです。そのためには常に自ら変革し、更なる活性化のための新たな方針を実行していくことが必要であると考えます。日本VMD協会は、会員一人ひとりが積極的に参加できる仕組みを作り、個々の会員の顔が見えてくるようなコミュニケーションによって協会の活性化を目指します。次世代を担う若い会員と経験豊富な会員が連携し、最新のVMD情報を共有して、協会の持続を図っていきます。

 

 

(田代悦子)